当サイトでもっともアクセスが多い記事の一つが“自己理解だけでは結局何も変わらない”です。その記事では「“自己理解ワークが一人で簡単にできて、やりたいことや才能が簡単に見つかる本”のようなお手軽な自己理解メソッドに人気があるけれど、少なくとも私はそのアプローチで“行動が現実的・継続的に変わった・実際に状況が継続的に改善した”という話を聞いたことがない」ということを書きました。
「自己理解」という脳内のシミュレーションはノーリスクかつ何度でもやり直しが効くものの、「行動」という社会的現実では傷を負うかもしれないという不安があるので、結局のところ本を読んだ程度では何も変わらないことが多い、つまり「失敗への恐怖が行動変容を阻害する」という趣旨です。
この記事では、なぜ行動に移せないか?なぜ行動が変えられないか?という理由を別の視点からも考察してみたいと思います。
「何かを選ぶ」とは「何かを捨てる」こと
人生は有限である以上、いくつかの選択肢の中から何かを選ぶという行為は、ほとんどの場合その他の選択肢を捨てるということを意味します。もちろんやり直しが効く選択も多いでしょうが、選択し直したときには自分の価値観・知識・経済事情・周囲からの役割期待など、環境や条件が異なってしまっていることも多いでしょう。
自己理解も同じです。自己理解は大まかに
①自分自身の価値・価値観・特徴などを正しく理解してビジョンを確立する
②自分らしい人生を送るために行動を変える
という2つの段階から成ります。
①の段階は脳内シミュレーションであるため、ビジョンは夢や理想に近いものとなることが多いでしょう。ある意味成功し続ける前提で考えることが奨励され、ビジョンはとてもポジティブなものになりがちです。これ自体は正しいアプローチであり、まったく悪いことではありません。
問題は②の行動変容の段階に進んだときに生じます。その問題とは「失敗への恐怖」だけではありません。ある具体的なビジョンを現実の目標として定めてしまうと、別のビジョンを選ぶことができなくなってしまうことに漠然と気付くのです。もっとわかりやすい表現をすると「人生の先が見えてしまう」という諦めの感覚と言っても良いかもしれません。そして「自分はそんなものじゃない、もっと良い人生を送れるはず」という気持ちにつながり、結局自己理解を「なかったこと」にしてしまうのでしょう。
もっと良い人生があるのではないか?と考えてしまう理由
より良い人生を送りたいという願いは自然であるとして、なぜせっかく作り上げたビジョンを現実のものとして受け容れられないのでしょうか?それはビジョンがどのような動機を基にしているか?に拠るところが大きいと考えられます。
人間の動機を捉えるモデルとして「外発的動機付け(衛生要因)」と「内発的動機付け」という考え方があります。前者は「それがないと満たされない」ものであり、多くの場合経済的成功や名声・報酬など社会的価値観の影響を受けるものとなります。
後者は「それがあると満たされていくもの」であり、例えば花を育てる、山に登るなど、基本的には「自分がそうしたいからそうする」と感じるものです。
この記事では外発的動機・内発的に動機についての詳細な解説は行いませんが、話を元に戻すと、自己理解を通じて得られたビジョンが外発的動機と内発的動機のどちらの影響をより多く受けたものであるか?という問題があります。
やや乱暴な表現をすると、内発的動機に基づくビジョンであれば、失敗を恐れる必要は少ないでしょうし、失敗したとしても恥ずかしい思いをする可能性は低いわけです。しかし外発的動機に基づくビジョンであれば、そこには常に「他者との比較」が付きまといます。他者との比較で勝ち続けることは不可能ですので、そこには必ず負けのイメージが同居します。そのイメージにより、一度確立したビジョンを「見直す理由」を創り出してしまいます。
「自己」は変えられる ー ただし自分自身を正しく認識し、そして意図的な変化を望めば
これまで語ったように、自己理解にまつわるプロセスは簡単なものではありません。しかし自己理解は必ずできますし、行動も変えられます。ただしそのためには上述の通り「本当の自分や、自分の願い」を認識することに加え、行動を変えるための環境を整えることが必要です。
本当の自分を知る、自分の願いを知るためには、自分に合った自己理解の方法を見つける必要がありますし、得られた答えを自分に腹落ちさせるためには「自分はなぜそう考えるのだろう?そう望むのだろう?」というメタ思考的な分析を行う必要があります。
そして行動を変えるためには、自分自身の価値観に基づき、自分の意思で心からそう願う必要があります。誰かのせいや誰かに言われたからではなく、自分が意図的に変化を志せば、その道のりは人によって異なるものの、必ず変わり始めることはできると私は考えます。
いかがでしたでしょうか。もちろんこのような考え方が絶対で唯一の正解だと申し上げたいわけではありません。人間は複雑な生き物であり、一人ひとり異なる存在です。だから心理に絶対や正解などないのです。
そして人は自分のことはわかりませんし、上述のとおり認めたくないという心理も作用します。ですので、有効なアプローチは対話です。他者との対話を通じて、人は自分の思考を整理し、その正当性を評価しようとします。それを支援するプロフェッショナルが専門の訓練を受けた我々コーチです。
- 自己理解に興味がある方
- 自己理解に取り組んでみたけれど結局何も変わらない方
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このような方はぜひお気軽にお問い合わせ・ご相談よりご連絡ください。