組織にコーチングを導入してみたものの、「一部の、元々意識が高い社員だけが利用している」「優秀で仕事が集中してしまう人ほど、多忙を理由に関心を持ってくれない」といったお悩みを伺うことがあります。
コーチング文化が組織に定着しない原因は、実は「メンバーがコーチングを嫌がっているから(関心がないから)」ということばかりではありません。「リーダー(経営陣や管理職)が傍観者のままでいること」が理由であることが珍しくありません。
今回は、国際コーチング連盟(ICF)が公開した記事(2025 ICF Coaching Impact Award受賞企業の事例分析)を元に、組織においてコーチングの成果を最大化させる「リーダーの関与(Leadership Engagement)」について探っていきます。
「言葉」ではなく「姿勢」を社員は見ている
社員や部下は、組織的変化の局面や不確実性の高い状況になればなるほど、リーダーの振る舞いをよく観察しています。
- 「成長や対話のための時間を、本気で重要な仕事として扱っているか?本気で確保しようとしているか?」
- 「コーチングは『優秀な人材を更に成長してもらう』のためのポジティブな位置付けか、それとも『問題のある社員への救済措置』的指導なのか?」
リーダーがキックオフなどの場で叱咤激励の言葉を一口述べるだけでは、コーチングは組織の文化にはなりません。言い換えると、リーダー自身が「それはあなたたち部下の仕事です。変わるべきはあなた方であり、私はそれを監視する役割です」という趣旨のメッセージを送ってしまえば、試みは失敗に終わります。
リーダー自身が対話やリフレクション(省察)を実践し、ハードルを取り除き、日常の行動で「対話と成長を大切にする姿勢」を示すことで初めて、コーチングは組織の日常へと溶け込んでいきます。
グローバル企業の成功事例:Microsoftとサウジー・エレクトロニシティ
ICFの記事では、実際に大きな成果を上げた2つの組織の事例が紹介されています。
1. Microsoft®︎(MCAPS部門)の事例
Microsoft®︎のカスタマー&パートナー・ソリューション部門では、コーチングを一部の人のための特別なツールから「リーダーとして当然の振る舞い」へと位置づけ直しました。
予算を明確に確保することによって受講のハードルを下げるとともに、「リーダーに期待される行動トップ3」の1つに「コーチング」を組み入れたのです。
その結果、参加者のキャリア行動が平均34%改善したほか、社内での昇進に向けた動きや社内応募の積極性が大幅に向上するという定量的な成果が得られました。
2. サウジ電力公社(Saudi Electricity Company)の事例
ここでは、コーチングを「経営課題・戦略の達成」と直結させることからスタートしました。
リーダー自身がまずコーチングの効果を体験したことでサポートが広がり、新任リーダーのオンボーディングやサクセッションプラン(後継者育成)にも組み込まれました。さらに、管理職向けのコーチングスキル研修を実施することで、日常のマネジメントの中にコーチング的対話を取り入れたのです。
結果として、社員エンゲージメントが19%向上し、心理的安全性が16%向上するなど、チーム全体のパフォーマンスに寄与する変化が生まれました。
リーダーの「関与」とは具体的に何をすることか?
ICFの記事では、望ましいリーダーの具体的な関与として以下のポイントを挙げています。
- 「成長のための機会」として位置づける
コーチングを「問題解決の手段」ではなく、「能力のある人がさらに飛躍するための支援」として語ること。 - 制度的・環境的なハードルを取り除く
予算や時間、利用する権利を保障する制度などを整え、誰もが利用しやすい環境を作ること。 - 日常のマネジメントに組み込む
1on1、評価面談、オンボーディングなど、普段の対話の場にコーチング的かかわりを溶け込ませること。 - リーダー自身が「問いかけ」と「傾聴」を実践する
指示命令ではなく、好奇心を持った問いかけや深い傾聴など、コーチング的な姿勢をリーダー自らが体現すること。
おわりに:コーチングはリーダーが「許可」を出した時に加速する
コーチング文化は、制度を導入した日に始まるのではありません。
「リーダーがその価値を信じ、自ら実践し、立場にかかわりなく相手を受容したとき」に始まります。
ビジネスの現場において、「社員に研修を受けさせたい」「部下に変わってほしい」と願う場面は多いかもしれません。しかし、一歩引き直して「自分自身の関与や姿勢が、相手にとって対話しやすい環境を作れているだろうか?」と問いかけることが、組織変革にとって重要な土台となります。
いかがでしょうか?こうして記事に取り上げられるくらい、グローバル企業でも人材育成は引き続き重要課題であり、コーチングには強い期待が寄せられています。
一方で弊社はコーチングを企業文化に導入することは一筋縄ではいかないと考えています。コーチングはパワフルですが万能ではなく、組織・人材の成長のためにはティーチングやフィードバックなど他の対人支援アプローチと組み合わせることが必要です。またコーチングの習熟には時間と手間、気力を要しますし、ビジネススキルの代表格である「解決スキル」と真逆の性質を持つため、優秀なビジネスパーソンであればあるほど、コーチングをとっつきにくいと捉える傾向が強まります。
ただしティーチングやフィードバックなどを効果的に行うためには受容・共感・承認などのスキルが必須であり、その視点ではコーチングの基本要素は必須だと言えます。
つまりまず組織のリーダーが習熟すべきは「コーチングそのもの」ではなく、「コーチングの基礎、またはコーチング的かかわり」でしょう。
弊社は経営層・管理職を対象に「“強み”の相互理解を通じたチームビルディング」、「コーチング的かかわりの導入支援」などを提供しています。組織内での対話やリーダーシップにお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
出典参考:
[International Coaching Federation (ICF) Blog – “When Leaders Engage: Why Coaching Impact Starts at the Top” (Author: Stephanie Norris)]https://coachingfederation.org/blog/when-leaders-engage-why-coaching-impact-starts-at-the-top/