“やりがい”がないといけないの?

クライアントは皆様「より良い自分になりたい」という願いをお持ちです。しかし「より良くなる」基準となる出発点は人それぞれ異なります。ある程度満たされていてもっと上を目指したいという人もいらっしゃれば、自分の人生で“成功体験”と言えるものは無く、したがって“やりがい”が何かもわからないという方もいらっしゃいます。今回は後者のケースについてお話しいたします。

“成功体験”と言われても…

「“成功体験”を挙げてください」とお願いすると、一生懸命考えてくださった挙げ句に「思い当たりません。学生時代に〇〇の大会で入賞したことくらいでしょうか…」などと仰る方は決して少なくありません。仕事での”やりがい”について思い当たらないと答える方も珍しくありません。

そのような方は、“成功体験”や“やりがい”がないことを「悪いこと」や「他人と比べて劣っている点」だと捉える傾向も強いように感じます。そしてそれは、一般的に“成功体験”や“やりがい”は「あって当然のもの」だと位置付けられているからだと私は考えています。

“成功体験”がない人は負け組?

一般的な自己啓発や自己理解に関するメソッドや書籍では、必ずと言っていいほど「“やりがい”が持てることを見つけよう」とか「“成功体験”から自分の“強み”を見つけよう」と言っています。つまり“成功体験”や“やりがい”が持てることを見つけることが大前提でありスタートラインでもあるのです。進め方として間違っていないとは思うのですが、問題は「出来事に対する認知の個人差」です。

一般的に“やりがい”や“成功体験”という言葉はポジティブなイメージを持ち、プラス材料や付加価値をもたらすものだと理解されています。しかし人によっては“やりがい”に相当する感情・感覚を、例えば「やらないと落ち着かないもの」と捉えていたり、“成功体験”を「失敗しなくて済んだ出来事」と捉えている場合があります。このようなタイプの方は自分が決めた基準に対して減点方式で自己評価してしまいがちです。つまり、例えばテストで100点満点を取ることを目指して一生懸命勉強して、そして実際に100点を取ったとしても「やった!うまく行った!」と喜びの感情を持つ人もいれば、「計画どおりの結果が出てホッとした」と安堵の感情を持つ人もいるということです。

ここで強調したいことは「同じ結果であっても“成功体験”や“やりがい”だと思える人と、そうではない人がいる」ということであり、それはあくまでも認知の差異に起因し、つまり「“成功体験”があると即答できる人が優れており、見つけられない人は負け組だ」というわけではないということです。

自分自身への価値付けと才能の関連性

これには才能が深く関わっていると考えています。実は私自身も“成功体験”がなかなか思い浮かばないのですが、例えば私は自分の上位資質である<自我>(7位)と<最上志向>(9位)が作用していると自己分析しています。この2つの資質が自分自身におよぼしている相乗効果は

「自分の価値を周囲に認めてほしい(=<自我>)。認められないということが無いよう、できることは全てやっておこう、想定できるリスクは全て予防しておこう(=<最上志向>)」

という感覚です。実際に全てを予防したりリスクヘッジしたりすることは不可能なので、やるべきことに終わりはなく、したがっていつも不安で仕方がありません。だから良い結果が出たとしても安堵するだけなのです。自分の感覚では「イーブンの状態を守った」に過ぎません。

同じような認知は他の才能・上位資質の組み合わせでも生じ得ます。例えば<競争性>と<達成欲>(「常に誰かと競争し、かつ勝たなければいけない」= 常に「勝っている」ことが当然の状態なので勝ってもプラス材料にならない)や、<自我>と<回復志向>(「認められる自分が普通の状態」= 周囲に認められる成果を挙げたとしても、やっと本来の自分に戻っただけなのでプラスだと感じない)という上位資質の相乗効果を生んでいたクライアントが実際にいらっしゃいました。

言葉に捉われないようにしよう

ここまでお話ししたことを整理すると「素晴らしい成果を挙げたり、優れた能力を持っていても、人によっては(つまり才能の組み合わせによっては)それを“成功体験”と捉えたり、“やりがい”を感じたりはしない」ということです。そのような方は無理に“成功体験”や“やりがい”にこだわる必要はないと私は思います。安心できることがモチベーションであっても何も悪いことはないのではないでしょうか。

ですので、私は“成功体験”や“やりがい”という言葉に距離感を持ってしまうクライアントに対しては、以下のような問いかけを行なっています。

「心からホッとした、解放されたと感じた瞬間はありましたか?」

「“自分らしい”仕事ぶりだなと思えた出来事はありましたか?」

同様のお悩みを持つ方は、是非上述したようにご自分の才能が出来事に対する認知にどう影響を与えるかを考えてみてください。
その上で“成功体験”、“やりがい”という言葉を捉え直してみてください。おそらくとても気が楽になるはずです。そしてゆっくりと、焦らずに自分の過ごしてきた道を振り返り、納得して仕事をこなすことができていたシーンを思い出しましょう。自分にとっての重要なモチベーションはきっとそこで見つかります。


他者と自分を比べると、優越感が得られることも劣等感を持つこともあります。他者は次から次へと現れる以上、他者と自分を比べることは劣等感を増やすことに確実につながります。

大切なことは自分を知り、自分らしく在るとはどういうことなのかを具体的に認識することです。少しでもこのような取り組みにご関心をお持ちであれば、お問い合わせ・ご相談よりお気軽にご相談ください。