コーチングやカウンセリングなど「技術としての対話」の基礎であり必須要素となるのが傾聴・共感・承認・質問です。企業で行われる管理職研修や、その一環としてのコーチング研修でも必ずこれらを学ぶことになります。
もちろん学べばすぐにできるようになるわけではなく、少しはできるようになったと感じるまでに1年以上を要することは珍しくありません。完全にマスターしたと感じられる領域に達した人は存在しないのでは?と思えるほど難しい、奥が深い技術です。
したがって教える側も常に「この短時間の間にできるだけ習得してもらうにはどう説明して、どのような演習を行えば良いのだろう?」と散々悩むことになります(もちろん私も試行錯誤しています)。
教える側に絶対的な正解がない技術ですから、当然教わる側も理解度はさまざまということになります。「教わったけど、結局何が肝心なのかわからない」、「共感と承認の違いがぜんぜんわからなかった」… そのような方の参考になれば幸いと、私なりに違いをまとめてみました。
「傾聴・共感・承認・質問」それぞれの特徴と違い
これら4要素を簡単に説明すると以下のようになります。コーチングやカウセリングにおける対話の流れもこの順序が基本となります(セッションを定期的に継続していて信頼関係がすでに構築できている場合やクライアントの精神状態などの要素次第では順序が異なったり、例えば質問を行わなかったりすることもあります)。
傾聴 | 【「聞く」のではなく「聴く」】 一般的な双方向の対話ではなく、話し手の言葉を聴き手が徹底的に聴くこと。話し手は、相手から否定されたり割り込まれたりすることなく、ひたすら自分の言葉に耳を傾けてもらえる体験を通じ、不安や警戒心なく話すことができるようになる。 聴き手は話し手の言葉に集中し、あいづちや質問などの反応を通じて話し手が話しやすい環境をつくる。途中で話をさえぎらず、聴き切る。 例: うなづく・「なるほど」「そうなんですね」などの相づち・「へぇ、それでその後は?」など話の続きを促す言葉 |
共感 | 【わかった、と思ったことを言葉にして返す】 話す相手の感情や経験を、自分の主観を排除して聴き、相手がどのような感情や経験をしたと考えているかを把握しようとすること。そして自分が把握した情報を言葉にして相手に伝えること。 一般的に共感という言葉は「同意する」意味で使われているがこれは間違い。同意する行為は同感・同調などと表現するのが正しい。 話し手は自分の言葉をすべて聴いてもらえることにより、安心感を得ることができるようになる。 例: 「大変辛い思いをしたのですね」・「努力が認められて報われた気持ちになったのですね」 |
承認 | 【感じたことを言葉にして伝える】 話す相手が行ったことや感じたこと(つまり傾聴を通じて聴き手が聴き取ったこと)に対して、自分はどのように感じたかを肯定的に伝えること。 話し手は自分の努力や工夫を肯定してもらえることを通じて、自分の存在や価値そのものを認めてもらえるという自己肯定感を得られるようになる。同時に聴き手に対する信頼感も生じる。 例: 「その状況でよくやり抜くことができましたね」・「素晴らしい成果ですね。驚きました」 |
質問 | 【相手の思考を深める、相手が新たな視点を得られるように問う】 話し手が自分の考えや価値観についてより深く考えたり、別の視点を得ることを期待して問いかけること。聴き手自身の関心や知識欲を満たすための質問ではない。 基本的にはオープンクエスチョンのかたちを採り、回答のために内省の時間を必要とするようにする。 例: 「もしもその時に戻れるとしたら、今度はどうしますか?」・「それを実現するためにはあと何が必要ですか?」 |
いかがでしょうか?カウセリングやコーチングにはいくつかの「流派」があり、流派によって微妙に位置付けが異なることもあります。またコーチやカウンセラーによって捉え方が異なることも珍しくありません。今回紹介した上記のまとめも、他社が紹介するものも、鵜呑みにせず自分なりに工夫して身につけていただくのが良いと思います。
大切なことは「クライアントが考えていることや悩んでいることをできるだけ率直に話してもらい、クライアント自身の判断でより良い判断や思考ができるようになるために協力する」という目的のためにできる最善のことを見つけることです。そのためには「自分らしさ」や「そのクライアントらしさ」に配慮し毎回カスタマイズして適切な対話のかたちを「創る」心構えを持つべきでしょう。
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