ストレングスファインダー®︎を採用の合否判定に利用してはいけない理由

ストレングスファインダー®︎の具体的な活用方法を考えるとき、特に経営者や人事の方は採用時の利用をすぐに思い浮かべます。上位資質や下位資質を見ることで、そのひとの活躍度や企業文化への適合度を推測できると考えてしまうのです。
しかし我々ストレングスコーチは「それは絶対に止めてほしい」とお願いしています。この投稿ではその理由を解説します。

ストレングスファインダー®︎活用において最も重要なこと

「ストレングスファインダー®︎は他の適性検査ツールと何が違うの?」というご質問をよくいただきます。弊社は以下のように回答しています。

  • Gallup®︎社による、約200万人に対して約40年間行った構造化された質問への回答を科学的に分析したものであるということ。つまり根拠となるデータの信頼性が高いことに加え、科学的な分析に基づいている。
  • 「リーダーかフォロワーか」、「教師かエンジニアか」などのように類型論で人を型にはめて捉えるのではなく、(あくまでも例えですが)例えば「あなたはリーダーとしての資質が最も多いですが、その次にフォロワーとしての資質も多く持っています」などと、あくまでも傾向を分析してくれるだけです。そのため2位以下の性質の可能性を切り捨てずに済みます。つまり検査ツールにレッテルを貼られることによって可能性を無視してしまうリスクが低い。
  • ツール開発元であるGallup®︎社自身がストレングスファインダー®︎の効果的な活用手法(ストレングスコーチング)を確立しており、そのインストラクターとして公式認定ストレングスコーチが存在する。

この中で最も重要なのは2つめの「レッテル貼りをしない」ことです。自分のキャリアや目標設定に悩んでいる人にとって「あなたは教師に向いています」とか「エンジニアの素質があります」などと具体的に途を示してくれうのはありがたいことかもしれません。悩まなくて済み、すぐに目標に向かって打ち込むことができるからです。
しかしそこには成長を妨げることにつながるリスクがいくつか存在します。私は特に考慮すべきリスクは3つあると考えています。

ひとつは、その選択の成否にかかわらずそこから得られる学びが少ない可能性が高いということです。成功したらそのこと自体は良いことなのかもしれませんが、自分で仮説を立てたわけではないので成功しても失敗しても学べることは少なく、したがって応用はあまり効かないでしょう。自分で考え判断したことであれば、結果をその選択判断のための仮説構築プロセスにフィードバックすることができます。そして次回はもっと良い判断ができる可能性が高まります。

ふたつめは失敗したときの結果を受け容れにくいことです。他者のアイデアに従ってそれが失敗に終わったとき、それを自分の責任だと捉える人は少ないでしょう。つまり他責にしてしまうのです。自責が良くて他責が悪いという単純な議論ではなく、他責だと捉えてしまうと、それだけで学びを得られる可能性は低くなってしまいます。

そして3つめは可能性を摘んでしまうことです。エンジニアとしても秀でた存在になれる可能性が高いのに、教師という可能性しか提示されないのはもったいないですよね。実際にはエンジニアでも成功するかもしれない、それどころかの本人の意欲や工夫次第では両方目指せるかもしれないのに、です。

ストレングスファインダー®︎を採用合否の参考にしてはいけない理由

ストレングスファインダー®︎を採用に利用してはいけないというのも同じ考え方によります。ストレングスファインダー®︎を通じて得られるのはあくまでもそのひとの才能、つまり「無意識に現れやすい思考・感情・行動」の傾向に関する分析結果です。実際に才能がどのように活用されているかは才能の所有者本人にしかわかりません。例えば「明るく誰とでも親しくなれる人」を見ると、多くの場合<社交性>を発揮していると考えるでしょう。しかし実際のところ本人は<収集心>や<責任感>を発揮しているのかもしれません。才能の活用方法は無限であるのと同様、ある成果に結びつく才能にも決まりはないのです。

採用判定にストレングスファインダー®︎を活用することはレッテル貼りに他ならないということがおわかりいただけたでしょうか。

ストレングスファインダー®︎は「可能性」を見出すためのもの

ストレングスファインダー®︎は、本質的には「できた理由」や「できなかった理由」を説明するためのものではありません。もちろん自分自身の才能や“強み”の理解のためには、行動とストレングスファインダー®︎の結果を結びつけて考えるプロセスは必要です。しかし自分の才能を受け容れられるようになった後は、「目的や目標を達成するための最適な方法を見つける」ための信頼性の高い参考情報となります。つまりストレングスファインダー®︎は、将来に向けたそのひとの可能性を見出すためのものなのです。

私が採用にストレングスファインダー®︎を活用した実例

とは言え、どうしても採用プロセスで有効に活用したいという気持ちはとても理解できます。ですので一般論ではなく、私個人が実践したことを紹介します。

私の前職はIT機器メーカーでの採用と人材開発の責任者でした。実はそのときに新卒採用でストレングスファインダー®︎を活用したことがあります。ただし採用決定後にです。

具体的には内定した新卒者と、その新卒者の配属先部署メンバーにストレングスファインダー®︎を受験してもらい、内定式の際に簡易的なストレングスチームビルディングを行なったのです。結果はとても良いものでした。

入社内定者からは以下のような感想をもらいました。

  • 先輩社員の特徴やものの考え方がわかり、不安が減った
  • 自分が持っている才能がチームの中で貴重なものだとわかったので少し自信が持てた

また迎え入れる社員は以下のような感想を持ちました。

  • 採用面接だけではわからなかったこと(モチベーションの源泉、意識しないとできないことなど)を把握することができたので、立ち上がりやすい仕事を与えられそうだ
  • 才能のフィルターを通して行動を見ることで、結果だけを見て小言を言うようなことが避けられそうだ

結果的にこの年の内定者は全員予定どおり入社し、チームに馴染むのも早く、一人で仕事を任せられるようになるまでの期間も短くなったという好結果につながりました。
あくまでも一例ですが、ご参考となれば幸いです。


ここでは触れませんが、採用判定に活用できる性格検査ツールも存在します。ただし万能ではなく、活用できる条件がある程度絞られます。例えば新卒と中途、一般社員とマネージャーであればジョブディスクリプションも採用判定基準も異なり、それに応じて性格検査ツールの使い方が異なってくるはずです。また、自社の企業文化や求人ポストに次第で優先される性格要件は異なるはずです。

採用と性格検査ツールについてご関心をお持ちであれば、お問い合わせ・ご相談よりお気軽にご相談ください。